今回はちょっと鉄分の多い話です。コロナ禍前の統計ではありますが1日の平均通過人員(利用者数)が100万人を超える唯一の鉄道が山手線です。品川駅 – 新宿駅 – 池袋駅 – 田端駅間で主要な上野駅や東京駅が東北本線と東海道線に合算されているので実際はもっと多い路線です。
この路線にはE235系の車両が導入されており、JR東日本では一番IoT化された車両です。今までであれば、検査車輛Easti(イーストアイ:JR東海のドクターイエローと同等版)が軌道(線路や土床)や架線の状況を点検していますが、営業車に架線センサー情報の受信や軌道をモニタリングする装置が搭載されており営業時間中に観測データをクラウドに上げるようになっています。これでデータを蓄積して早期異常発見を借る予定とのことです。すぐに検査車輛の代替とはなりませんが変化の検知が速ければ対処も早く、浅い傷はすぐに治ります。※検査車輛は新幹線用と在来線用があります。土床は砕石砂利(パラスト)の部分です。
このなかで関わったものがJR東日本アプリに含まれる山手線(トレインネット)です。JR東日本アプリも年々増強してカバー範囲も広がってきました。アプリを起動して、運行状況-関東エリア-山手線(トレインネット)を選択します。[ビーコン受信]ボタンを押すと自分の乗っている編成と車両番号がわかるようになります。編成の各車両の混雑状況や気温が出てきます。混雑状況は車両に乗っている重量により推測されています。また、位置情報も正確で駅間のどの辺かもわかります。車両の位置情報がわかる仕組みは次の機会に。
このビーコンは大きく2種類発信しています。ビーコンと言えば今でこそBluetoothですが、開発当時はBluetooth搭載の携帯がそれほど多くないの状況で公共交通としてサービスに差が出るのは好ましくないという事でどの携帯でも受信可能な音波でのビーコンを搭載する事になりました。音波でのビーコンとBluetoothの2種類で稼働しています。BluetoothのIDもJR東日本用からLINE IDなど数種類搭載されています。実際LINE ID(LINE Beacon)を使ってLINE漫画が読めるなどのキャンペーンをしていました。
このようにビーコンを複数配信したりすると、きちんと動作しているかの稼働状況が気になります。以前1編成だけビーコン単体で動作させた実験では担当者が駅に電車が来るのを待って乗り込み各編成の稼働状態を確認していました。試験時はまだいいですが(それでも大変ではあります)運用となり全編成となるととても人手ではできなくなります。
山手線の車両は、11両編成で、52編成あるので全部で572両にビーコンが設置されています。このビーコンの稼働状況をリモートで先頭車両にデータをクラウドに送信するXI系の通信装置をとうさいしました。また、各車両の装置の稼働状況も車両間通信をLPWAで行います。また、ケースは不燃物という事でアルミケースにしましたが電波を出すためにスロットアンテナと言う特殊な方法を採用しています。これらを制御するのはMPUで各センサーや通信機器が正常に動作しているかの監視やデータをクラウドに送る制御をしています。2014年から稼働を始めたので8年ほど経過しています。大きなトラブルと言えば通信キャリアさんのユニットのフラッシュメモリの障害発生位でしょうか。フラッシュメモリには書き換え回数制限や書き込み中の電源断など組み込み系ならではの注意すべき点がありますが、何かの表示に抜けてしまったのでしょうね。1車両に1個しかないので見つけにくいかもしれませんが、山手線に乗車されましたら蛍光灯の並びにスリットの空いた箱を見つける事ができます。
山手線関連の案件で29駅(高輪ケートウェイの開駅前)にラチ(埒は柵の事で改札を差す業界語)の内側近くに環境センサーを設置しました。環境センサーですから温度、湿度、照度、ガス(揮発系)の情報を取得してLTE回線でクラウドに送信します。それで何がわかるのかと言えば駅環境や酔っ払いが来たぐらいです。もう一つユニークな機能が搭載されています。それはBluetoothやWiFiのIDの数を数えています。何のためかは混雑状況を推測するためです。数が多ければ混雑しているの単純な物です。当初の計画ではIDの詳細もクラウドに送ればどのIDがどの駅に載ってどこに行ったか行動がわかるからやってみるかの意見もありましたが、結局プラスパシーの問題と改札の情報のスイカをトレースすればより正確でしょとなって数を数えるだけとなりました。ただ、この機能もコロナになってから乗客の増減の速報として使えるので内部的な参考資料として生きています。ラチ内の近くに天井か壁に親子亀になった箱が設置されていますので探してみてください。※ラチは「らちが明かない」などにも使われています。
この両方のIoT端末で一番求められたのが「発煙事故の無い装置」燃えないのは当たり前で煙や焦げたにおいも絶対にダメだという事でこの点には注意して設計しました。山手線で煙を出せば車両は止まるは、消防や警察は来るは、下手したら国土交通省の運輸安全委員会も来るかも、と脅されました。まあ、そんなことになれば当然と言えば当然ではありますが。そんな恐ろしいリスクも乗り越えてIoTの導入が進んでいます。